KOSS's comment

　僕が金森幸介を知ったのは、９６年の「夏の楽園」というフリーコンサー
トでのことだった。その時の感想は、この癖のある歌い方についてゆけなかっ
たってのが正直なところ。

　そんな彼のＣＤが十数年ぶりに出るらしく、今、予約受付中だよって聞い
たのは、今年のはじめの頃だったか？、僕の回りではこぞって予約をしてい
たが、僕はいまいち気乗りがせず、結局予約をしなかった。これが結果的に
大失敗だ。

　このＣＤを聴く前に、僕は、９７年の「夏の楽園」で再び金森幸介を体験
することになる。土砂降りの雨というシチュエーションだったが、これが実
にいいんだ。ライブレポートで、僕は以下のように書いている。

　「たたきつける雨音しか聞こえない森林公園。雨に煙り、ライトアップさ
　れたステージが　ぼんやりと浮かび上がり、幻想的な雰囲気を醸し出してい
　た。そんな中から、ピアノ音が流れ出し、そして、スナップを利かした金森
　幸介のギターに、どこまでも伸びていきそうな気持ちのいいヴォーカル。」

　そしてこの時、初めて彼の詩が僕の中に届いた。

「いや間違いと誰かが切り出す
　不幸な世代と誰かが続く
　君は押し黙り
　僕は口ごもる
　吹き抜けてゆく風をじっとみている

　夢は色褪せてゆく
　僕は年老いてゆく
　でもまだへこたれちゃいない」  
                                もう引き返さない／金森幸介
                                
　僕らは昔よく議論した。けど今じゃ、生活に流され、昔話をすると今の自
分が惨めで、押し黙り、口ごもる。僕らはどんどん年老いてゆくし、昔共有
した夢はどんどん色褪せて行く。そう僕らはへこたれてしまったんだ。彼の
この歌を聴きながら、そんなことを思い、涙が出そうになった。

　そのライブ会場で手に入れたＣＤ。版画が印刷された丁寧な作りな紙のジャ
ケット。彼の音楽をそのまま反映してるかのようなジャケットである。まる
で古い友人からの手紙のよう。予約をしておけば、別の版画がおまけでもら
えたんだ。大失敗ってのはこのことさ。

　出てきた音は、あの土砂降りの中で聴いた「金森幸介」。彼のヴォーカル
とギターだけでも十分名盤として通用するのだが、これを不滅のものとして
いるのが、サポートしてる白井幹夫のピアノとオルガンである。

　特にこのピアノの美しさといったらない。虚飾を排した一切無駄のない音。
金森幸介のヴォーカルと対峙してるかのようだ。この澄んだピアノと何処ま
でものびて行くヴォーカル。これ以上のものなどありはしない。

　多分、僕が４０代になった時、ここで歌われている詩は、今３０代の僕が
感じる以上にもっと染みてくるだろう。今の僕では若すぎるのかもしれない。
だから、僕は一生聴き続けるだろう。

　とにかく聴いてみなさいって。この音はどんな文才がある人でも表現でき
やしない。そしてこれは、金森幸介にしか歌えない詩なんだ。誰もカヴァー
できやしない唯一無比の絶対的なもの。そう表現できるアーティストを僕は
他に知らない。

PS.このＣＤは一般店では購入できません。以下に問い合わせて下さい。

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　　金森幸介「緑地にて」

　　　金森幸介　Vocals,Guitar,harmonica
  　  白井幹夫　Piano,Organ

　　　服部緑地野外音楽堂　　　　　録音場所
　　　９６年１０月２３，２４日　　録音日時
　　　村元　武　　　　　　　　　　Executive Producer
    　森　英二郎　　　　　　　　　Woodcut
    　ｸﾞﾘｰﾝｴｲﾄﾞ ﾊﾞｶﾞｽ･ｼｭｶﾞｰ　　　 紙

　　　発売　　ビレッジプレス
　　　　　　　　電　話　06-338-8355
　　　　　　　　メール　GBH04705（Nifty)　村元　武　

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97.10.11